本のすすめ 時々ひとりごと

横松心平オフィシャルブログ

Book Mystery

小森収編『短編ミステリの二百年 1』創元推理文庫

投稿日:

 この本には、面白い、様々なタイプの短編ミステリ小説が収録されています。中でもおすすめなのが、ジョン・コリア「ナツメグの味」です。

 新しく職場に来た同僚。彼が、かつて殺人容疑をかけられたことを、主人公は知ります。動機が全くなくて、無罪になったということです。
 同僚の家に招かれ、手作りのカクテルを振る舞われます。
 それで話は終わりです。何も事件は起こりません。
けれど、あることを示唆して、この短い小説は、キリリと終わります。真相ははっきりとは示されず、読者に委ねられます。

 そんな話のどこが「完璧な短編小説」なのか。
 まあ、読んでみてください。

 もう一つ、おすすめしたいのが、コーネル・ウールリッチ「さらばニューヨーク」です。ウールリッチは、ウィリアム・アイリッシュ名義でも作品を発表している、サスペンス小説の名手です。
 あー、ドキドキする。
 という作品を読みたいときは、ウールリッチをどうぞ、と自信を持って言えますね。

 一行目から引き寄せられます。

ガスの匂いには下にいたときから気づいていたけれど、特に何も考えなかった。わたしたちの部屋がある階までのぼると、その匂いはいっそう強くなった。

 失業してお金に困った夫が自殺を図る。妻がなんとか助ける。夫は外出し、大金を持って明け方に帰ってくる。夫はやけに長く手を洗っている。
 その時の描写がこうです。

バスルームで手を洗う音が聞こえてきた。異様に長いあいだ洗っている。いつまでもやめないのではないかと思ってしまうほどだった。いつもはいいかげんなのに——申し訳程度に流すだけで、わたしのタオルを汚しているくせに。

新聞には、夫をクビにした元社長が殺されたという記事。
妻のセリフ
「わたしたち——ここを出た方がいいんじゃないかしら?」

 こんな調子で、ラストまで緊張感が持続されます。意外なオチとか、謎解きとか、何にもありません。でも、ハラハラしながら最後まで読まされてしまいます。

 ジョン・コリアとは全く違ったタイプの、しかし同様に最高級の職人技が発揮されています。

 選りすぐりの短編小説が12編収録されていて、150ページ以上の解説がついていて、1300円とは、お安いですよね。これが6巻まで続くというのですから、たまりません。

小森収編『短編ミステリの二百年 1』は、「完璧な短編小説に出会いたい」あなたのための本です。

-Book, Mystery

Copyright© 横松心平オフィシャルブログ , 2021 All Rights Reserved Powered by STINGER.